現在アニメが放送中の『ゴールデンカムイ』コミックス最新刊の第14巻が発売されたので簡単にレビューします。
様々な疑問や疑惑の中で、金塊の在り処を知るのっぺら坊が収監されているという網走監獄までたどり着いた杉元たち。
そこで待っていたのは、勢揃いした役者たちが繰り広げる苛烈な戦いと裏切りでした。
野田サトル(著)『ゴールデンカムイ』 第14巻
アニメも絶賛放送中の『ゴールデンカムイ』。第14巻ではこれまでの物語の集大成とも言えるくらい激しい戦いが全編にわたり繰り広げられます。
と同時に、これまであった疑惑や因縁にも動きがあり、全編でまさに目が離せない展開となっております。
表紙は土方歳三。表紙に登場するのは第3巻以来です。
七師団 vs 700人の凶悪犯
監獄にいる土方の内通者・門倉看守部長を使ってのっぺら坊の舎房に侵入した杉元たち。しかし、そこにいたのは偽物で、しかも直後に門倉が裏切り、杉元たちの侵入がバレてしまいます。
同時に、鶴見中尉と内通していたインカㇻマッの情報で第七師団が到着。鶴見中尉たちの目的はもちろんのっぺら坊ですが、その前に襲撃が中央にバレないよう網走監獄にいる看守たちを全滅させようとします。
重装備で待ち構えていた犬童たちですが、駆逐艦の強襲により迎撃に失敗。監獄内への侵入を許し、白兵戦となります。しかし、歴戦の第七師団に勝てるわけもなく、ほぼ一方的に蹂躙されていきます。
そして、あっさりのっぺら坊のいる舎房に到達した鶴見中尉たち第七師団。そこで、のっぺら坊の偽物と会っていた杉元と遭遇しますが、二階堂の暴走と門倉の機転により凶悪犯を収容していた舎房のカギが一斉に開けられ、鶴見中尉率いる第七師団は700人の凶悪犯と対峙することになります。
狭い通路で繰り広げられる激しい戦い。網走監獄の看守たちと第七師団では戦いにならないと思っていたので、凶悪犯との戦闘はワクワクしました。
しかし、いくら凶悪犯といえども武器はありませんし、相手は普通の兵士とは比べ物にならないほど強力な第七師団でしたから、結果的には第七師団の勝利で終わりました。
杉元 vs 二階堂
一方、スキを見て舎房を脱出していた杉元でしたが、追いかけてきた二階堂と戦闘になります。
兄弟の敵討ちのため、ずっと杉元を追いかけていた二階堂。因縁の対決となりました。
銃や剣で激しく殺しあう二人でしたが、切り札の足に仕込んだ銃をギリギリでかわされた二階堂は、逆に右手を吹き飛ばされてしまいます。杉元も顔を刺されたりと重傷を負いますが、因縁の対決はかろうじて杉元の勝利で終わりました。
このまま決着かと思われましたが、第七師団の追手が来たことで杉元は撤退。二階堂は死んだわけでないので、まだまだ二階堂との因縁は続きそうです。
それにしても耳がなくなり片足も失い、さらに右手まで失った二階堂は、いったいどこまで人間離れしていくのか。そっちのほうが気になってしまいます。
土方 vs 犬童
ニセのっぺら坊と杉元たちを引き合わせて最後に裏切った門倉。その門倉は土方のスパイでしたが、土方の狙いはニセのっぺら坊で騒ぎを起こし、不安に駆られた犬童が本物ののっぺら坊を隠している場所に行くのを尾行することでした。
そして、都丹庵士とともに、のっぺら坊の隠し場所を見つけた土方。が、犬童の不意打ちに合い、都丹庵士は戦闘不能に・・・
さらにスキを見て土方に手錠をした犬童。鎖で繋がれた二人の一騎打ちとなります。
鎖でつながれて思うように動けない土方。一方、この日のために特殊な鍛錬をしていた犬童は戦いを有利に進めます。
しかし、機転を利かせた土方が自分の血を目つぶしに使い、最後は犬童を一閃。首を切り落とし勝利しました。
年老いたとはいえ、やっぱり土方は強いですね。
再会
二階堂との闘いに勝利し、のっぺら坊を探す杉元でしたが、犬童のもとから逃れたのっぺら坊と偶然出会います。
のっぺら坊にようやく会えた杉元は、アシㇼパの父親が作ったマキリを見せ、その反応からのっぺら坊がアシㇼパの父親であることを確信します。
金塊について知りたければアシㇼパ本人を連れてこいというのっぺら坊。しかし、金塊の行方も当然知りたいが、その前に”どうしてアシㇼパを巻き込んだ”と問いかける杉元。
のっぺら坊はアシㇼパをアイヌの独立戦争の先頭に立たせるつもりだと考えた杉元は、アシㇼパを”俺たちみたいな人殺しにしようってのか”と激昂します。
これまでもアシㇼパのことになると雰囲気が変わっていた杉元ですが、いつの間にか当初の目的である金塊よりもアシㇼパのことのほうがずっと大事になっていたようです。この言葉には杉元の本心が感じられて、読んでいてとてもアツいものを感じました。
そうしてのっぺら坊とやり取りしている杉元を、遠くの屋根の上からインカㇻマッが見つけ、隣にいたアシㇼパに双眼鏡で父親か確認するよう促します。
同じように、双眼鏡でのっぺら坊に屋根の上にいるアシㇼパを確認させる杉元。長い間離れ離れだった父娘が、双眼鏡越しとはいえ遂に再会しました。
これで金塊の在り処をのっぺら坊から聞き出して物語も一気に進むと思っていたのですが、この後には衝撃的な展開が待っていました。
裏切り
ようやく再会したのっぺら坊とアシㇼパ。そして、”アイヌを殺したのは私じゃない”とのっぺら坊が口にした瞬間、のっぺら坊の頭を銃弾が撃ち抜きます。
これから金塊の在り処を喋ろうとしていたであろうのっぺら坊が、まさか撃たれるとは思ってもみませんでしたが、次の瞬間にはさらに予想していなかった展開が待っていました。
なんと、杉元まで頭を撃たれることに・・・。
そしてその犯人は、それまで大人しくしていたせいで存在を忘れていたこの人でした。
それは尾形百之助。14巻ではここまで一度も描かれていなかったので、まったく予想していませんでした。
杉元に止めを刺そうとする尾形でしたが、それを阻止したのがここまであまり良いところがなかった谷垣。身を挺して杉元たちを救出しました。
そして、銃撃された杉元とのっぺら坊の二人を抱えて網走監獄の正門まで逃げた谷垣でしたが、そこに待っていたのは腹を刺され重傷を負ったインカㇻマッでした。
もう衝撃の展開が多すぎて頭が追い付かない感じでしたが、これをやったのはキロランケ。彼はやはり極東ロシアのパルチザンらしく、のっぺら坊を口封じのために殺したようです。
ただ、彼の口から全部の真相が明かされたわけではありませんし、インカㇻマッを刺す気もなかったようですから(取っ組み合いのうちの事故?)、まだまだ彼には謎が残されています。
そして舞台は樺太へ
結局、重傷を負った杉元やインカㇻマッは、谷垣とともに第七師団に連行されてしまいました。
家永も一緒に捕らわれたのですが、そのおかげで杉元とインカㇻマッの2人は治療を受けることができ、何とか生きながらえることができたようです(インカㇻマッはまだ危ないようですが)。
どうやら家永は趣味の拷問で、生きたままの人間から脳みそを取り出して食べていた様子。
お前は『ハンニバル』に出ていたレクター博士かよ。
とにかく脳に詳しい家永のおかげで、杉元は今回も死なずに済みました。
土方は牛山・門倉・都丹庵士とともに、のっぺら坊が隠されていた地下室に逃げ込み潜伏。地上には第七師団がいますからこのままやり過ごして、スキを見つけて脱出するようです。
そして、アシㇼパは一緒にいたキロランケ・白石・尾形とともに小舟に乗って網走監獄を脱出し、その後、キロランケの仲間が待つ樺太に向かったようです。
白石はともかく、不気味なのは尾形です。のっぺら坊を撃っただけでなく、どうやら予定にはなかったらしい杉元まで撃った尾形。
さらに、アシㇼパには杉元は死んだとウソまでついていながら、アシㇼパを励ます言葉を口にしています。底が知れない不気味さでは、彼が作品中ナンバーワンでしょうね。
そして、杉元はケガの回復と同時に、今度は鶴見中尉の仲間たち(鯉登少尉と月島軍曹)と谷垣を連れて、アシㇼパが向かったとされる樺太を目指すことになりました。
こうして第15巻からは樺太編がスタートすることになった『ゴールデンカムイ』。果たして杉元はアシㇼパに無事再会し、金塊を手に入れることができるのでしょうか。
感想
全編バトル尽しで、まさに怒涛の展開だった第14巻。これまでずっとのっぺら坊とアシㇼパが再会するときがこの作品のクライマックスだと思っていたのですが、まったく異なる展開になり、まるで映画を見ているような印象でした。
これまで積み重ねてきた疑惑や陰謀・人間関係が物語にリンクし、網走監獄に集まった人間たちがドラマを作っていく様は見事としか言いようがありません。また最初から読み直したいですね。
ところでのっぺら坊って本当に死んだんでしょうか?直接の描写が無かったので、ちょっと混乱しています。
杉元と違い、もろに銃弾を頭部に受けていたので死んでいる可能性は高いですが、もともと尾形の撃った銃弾は人を殺すのに不向きのようですし、家永も居ますからひょっとしたら・・・なんて思ってしまいます。
あとは、金塊がうやむやにならないか心配です。のっぺら坊は銃撃前”金塊・・・”と言っていましたが、ハッキリ言う前に撃たれてしまいましたから、けっきょく金塊がどこにどのくらいあるのかは不明のままです。
杉元は金塊よりもアシㇼパを追いかけることのほうに情熱が向いている感じでしたから、アシㇼパを助けたらもう金塊は探さない、なんてことにならないかちょっと気になります(そうなっても第七師団や土方が放ってはおかないでしょうが)。
そして、次回からは樺太編がスタート。すでに樺太入りした杉元たちは、新しいアイヌの少女に出会っております。
彼女がどの程度物語に絡んでくるかわかりませんが、尾形や月島のような初登場時はモブっぽかったキャラクターが重要な人物になってくることも多い『ゴールデンカムイ』ですから、今後が楽しみです。