TVアニメ第三期の政策が決定し、シリーズ累計1000万部突破と絶好調の『ゴールデンカムイ』最新コミックス19巻を買ってきました。簡単に紹介したいと思います。
野田サトル(著)『ゴールデンカムイ』 第19巻
金塊を示す暗号を解読する手がかりを掴むため、父を知る旅を続けるアシㇼパ。少数民族独立のため革命運動をアシㇼパの父ウイルクとともに行っていたソフィアに会うため、彼女を脱獄させるところまできたのが前回まででした。
そして今回、ウイルクに深く関わっていたソフィアと出会うことで、アシㇼパは大切な父の言葉をついに思い出すのでした。
表紙はキロランケ。作中きっての色男ですが、革命戦士として若いころから戦い続けてきた彼に決着が訪れます。
ウイルクの構想
亜港監獄に囚われていたかつてのウイルクの仲間・ソフィアを無事に脱獄させたアシㇼパたち。さっそくソフィアからウイルクのことを聞き出します。
それによると、ソフィア自身は元々お金持ちのお嬢さんだったらしいが、どういうわけかウイルクとキロランケらとともに革命運動に参加。そこでウイルクから樺太アイヌの独自の言葉や文化など様々なことを教わったらしい。
ウイルクは樺太アイヌの独自の文化などを守るためには戦うしかないと思っていたようで、日本の北海道にいる似た文化を持つほかのアイヌと協力して【極東連邦国家】を作り、ロシアや日本という国に対抗していこうと考えていたようです。
いくらカリスマ性があったといってもいちゲリラ組織が一国を相手にできるわけないと思っていましたが、ロシアと日本にまたがるアイヌをまとめあげる考えだったとは、なかなかスケールの大きな話しです。もっとも広い地域に分布しているアイヌをまとめるのは生半可なことではないでしょうし、実際実行に移されたわけではないのでどういう方法でまとめるつもりだったのか、気になります。
大切な言葉
そんな話しをしていると、ウイルクの名前の由来へと話しがおよびます。キロランケも知らなかったようですが、ウイルクとはポーランド語で「オオカミ」という意味だそう。群れという集団を生かすために余分な優しさがないオオカミに憧れた子供のころのウイルクを見て、ポーランド人だった父親が名付けたそうです。
ここでアシㇼパが思い出したのが、子供のころウイルクに母親のことを教えてとねだった時のこと。この時、ウイルクはアシㇼパの母がアイヌ語でつけてくれたウイルクの名前・ホロケウオシコニ(オオカミに追いつく)という言葉をアシㇼパに教えます。
この言葉を忘れないようにと口にしていたウイルク。実際にはアシㇼパは忘れていたわけですが、この言葉を思い出したとたん、これまで見た囚人の入れ墨の意味がわかったらしいアシㇼパ。思わずあっと口に出てしまいますが、これは入れ墨の解読方法がわかったという意味でしょうか?これまでまったくの謎だった暗号の解読方法が、これで一気に進むことになりそうでドキドキしますね。
アシㇼパを口説こうとする尾形
アシㇼパが何かに気づいたらしいことに尾形が目ざとく反応します。口実をつくってキロランケたちから離れ、アシㇼパと二人きりになる尾形。アシㇼパから気づいたことを聞き出そうとする尾形ですが、そこへ杉元がアシㇼパたちにようやく追いついてきます。
さすがの尾形も不死身の杉元の姿には大いに驚いたことでしょう。アシㇼパの口を割らせるため、彼の網走監獄での様子をでたらめに語りだします。
演技とはいえ死の直前の杉元を想い、悲しそうな顔で彼の最後を語る尾形は、実に滑稽で面白いですね。色々ウソを並べて金塊を手に入れることが杉元の最後の願いだという尾形ですが、最後の料理のことでアシㇼパにウソがバレてしまいます。このあたりが実にゴールデンカムイらしい展開です。
意外な行動
アシㇼパにウソがバレると今度はキレだす尾形。色々忙しいですが、どうやら人を殺したことがないアシㇼパに、今は亡き義理の弟の姿を重ねていたようです。戦いで人を殺さない「清い」体でいることが我慢ならない尾形。彼の過去を知っている読者はなるほどと思いますが、そんなこと知らないアシㇼパからはなんのこっちゃという感じでしょう。
そしてついに、ウイルクを殺したのは自分だと告白してまでアシㇼパに自分を殺させようとする尾形でしたが、それでも尾形を殺そうとしないアシㇼパを見て彼女へ銃口を向けます。
そこへ現れたのが、怒りの形相の杉元。「尾形ぁ!!」とでかい声で叫びますが、ここで尾形へ毒矢をかまえていたアシㇼパがビックリして矢を放ってしまい、なんと尾形の右目に命中してしまいます。
猛毒の矢が刺さったのに笑う尾形。これでアシㇼパも人殺しになったとでも思っているんでしょうか。今更ですけどこの人、そうとう歪んだ性格をしていますね。
で、ここで杉元がナイフを持って尾形にのしかかります。ついにトドメかと思ったのですが、杉元がとった行動は、なんとナイフで尾形の目をくりぬいて毒を口で吸いだすことでした。これは読んでいた時めちゃめちゃビックリしました。
何しろ杉元にとって尾形は最初からずっと敵であり、成り行きで一緒にいた時には頭を打ち抜かれ、さらにアシㇼパさんまでさらっていった憎き相手のハズです。それを見殺しどころか積極的に助けようとするとは。1巻の最初に尾形と戦ったときにトドメを差そうとしていた時とは真逆の行動です。
ついに再会した二人
なぜ尾形を助けたのか。それもこれも全てアシㇼパのためであり、尾形が死ねばアシㇼパが彼を殺したことになってしまうからでした。アシㇼパを人殺しにさせないために、ここでは死なさないと懸命に尾形を助けようとする杉元。
そして尾形の応急処置が終わると、ようやく杉元とアシㇼパの再会シーンとなりました。
網走監獄で別れ、樺太に渡ってからのここまでの道のりは実に長かったですから、この見開き再会シーンは本気で感動してしまいました。
別れ
一方アシㇼパが尾形といなくなったので彼女を探していたキロランケは、偶然谷垣に遭遇してしまいます。インカㇻマッをキロランケに刺され復讐に燃える谷垣の猛攻を受けるキロランケは、腹に短刀を刺され重傷を負います。
それでも辛うじて逃げ出したキロランケは、追手の月島と鯉登を仕掛け爆弾で吹っ飛ばしたり、さらに鯉登を罠にかけるなど、ゲリラ時代の戦闘能力の高さを見せつけます。
それでもやっぱり数には勝てず(並の敵なら問題なかったでしょうが谷垣・月島・鯉登だとさすがに厳しい)最後は完全に追い詰められます。
それでもまだ戦おうとするキロランケの執念が恐ろしいですが、そこへアシㇼパが到着。さっきウイルクの言ったことを全部思い出したことを密かに耳打ちすると、ようやくキロランケは戦うのをやめました。
自分の最後を悟り、ここまでの旅を思い浮かべるキロランケ。たまに無駄なシーンが入っていたりするのがいかにも『ゴールデンカムイ』らしいですが、最後にソフィアの名前を呼んで彼はこと切れたのでした。
思えば5巻で初登場したキロランケは、杉元たち仲間の中で最初の脱落者となってしまいました。アシㇼパと同じアイヌであり、ここまで彼女を導いてきたキロランケの喪失はかなり大きいといえるでしょう。月島と鯉登は今は仲間ですが実際には第七師団の鶴見中尉の部下ですし、いずれは敵対しそうな感じです。そんな時にキロランケはアシㇼパ側の味方になって大きな戦力になってくれたでしょうから、彼が抜けるのはこれから第七師団との闘いが待つ杉元たちにとってはかなりのマイナスになるでしょう。
感想
樺太編に入ったのが第14巻で、19巻でようやくアシㇼパと再会することができた杉元。ここまで長かったです。
感動的な再会シーンが白石の放尿で台無しになるのは相変わらずですが、それでも見開きページで描かれた二人の姿は読み続けてよかったと思えるものでした。
だからこそそのあとのキロランケ死亡は余計にびっくりしました。アシㇼパと杉元の感動的な再会でてっきり樺太編は終わりと思っていましたから、まさかキロランケが死んでしまうとは想像もしておりませんでした。
アイヌやウイルクについて色々語ってくれたキロランケは頼れるアニキ的な存在でしたし、実際戦闘能力もかなり高かったですから、杉元たちの戦力的なダウンは避けられません。彼の抜けた穴をどうカバーしていくのか、これからの展開が大いに気になるところです。