物語も佳境を迎えた『アイアムアヒーロー』 第20巻の感想など。
巨大なZQNの集合体に吸収されてしまった比呂美のその後や、大量のZQNに侵入されてしまい戦うしかなかいコロリ隊長たちの最後の死闘が描かれます。
花沢健吾(著)『アイアムアヒーロー』 第20巻
第20巻では229~238話までを収録しております。表紙はクルスと対峙するコロリ隊長たち。ビル屋上にあったヘリが飛び立っているのが気になります。
前巻のレビューは以下の記事を参考にしてください。

英雄・クルス・コロリと、バラバラだった三局面が一つになっていく第19巻。
東京に戻ってきた英雄
前回、巨大なZQNに取り込まれてしまった比呂美。どうやら比呂美はZQN全体をコントロールする力があるようで、小田さんを(無自覚とはいえ)殺してしまったのも比呂美でした。
そんな比呂美がさらわれたことにうろたえる英雄。船ではとりあえず比呂美を追いかけて東京を目指します。
東京まであと一時間、久々に登場した矢島とこれまでの人生を振り返るような会話をする英雄ですが、結論的には“逃げない”ことを選ぶ英雄。
やっぱり主人公ですから、ベタな展開でもこういう選択をしてくれたほうが盛り上がりますね。
銃の手入れもバッチリして、船のおじさんに3日だけ待ってもらうようにお願いをしたら、カヌーで東京に上陸。しばらく歩くと、コロリ隊長たちが籠城していたサンライズビルが見えてきました。煙が出ていることで人がいることを確信する英雄は、サンライズビルに向かうのでした。
これで英雄・クルス・コロリ隊長と、役者が東京に集合したことになりました。いよいよクライマックスといった感じでドキドキします。
巨大ZQNに吸収された比呂美
一方、こちらは巨大ZQNに吸収されてしまった比呂美。どうやら自我は残っているらしく、ZQN集積脳と呼ばれる意識の集合体と掲示板のようなところで会話をしています。
これによると、現在、比呂美はZQN集積脳との物理的接触による双方向通信をしている状態とのこと。
この中では、完全な「個」は維持できず、意識や感覚が全体で共有される集合体になってしまうようです。
ただ、「個」が完全には解体されず「全」の意識の底に沈んでいく者もいるようで、どういうルールかはわかりませんが今の比呂美のような存在も少なからずはいるようです。
そんな中、比呂美が気にしていたのは小田さんのこと。
彼女の意識と混ざるのは嫌だった比呂美ですが、小田さんは意識が統合される前に脳が破壊されたためこの可能性は無いとのこと。
しかしこの後、実に意外な人物が比呂美に語りかけてきました。それは英雄の彼女だった徹子でした。
顔は出てきませんが、コミックス2巻以来の登場となった徹子。彼女の意識は統合されていたようで英雄に首を切り落とされる時の記憶まで持っておりました。
その後、徹子の体がどうなったのか不明ですが、おそらくはそのままアパートに残っているはずですから、意識の統合とは物理的に巨大ZQNに吸収されずとも、感染から時間が経てば自動的に行われるということでしょうか。
果たして、徹子の存在が比呂美にどういった影響を与えるのか楽しみです。
サンライズビルの死闘
そして、前巻でクルスが侵入したサンライズビルには、ZQNが群がっておりました。
はしご車から次々と侵入してくるZQNに、芝刈り機で抵抗するコロリ隊長の仲間たち。狭い廊下をカートで塞いで防御しながらリーチのある芝刈り機でZQNを攻撃していきます。
攻防一体のこの陣形、中々考えられた戦法ですね。
燃料切れに備えて後列にも芝刈り機を持った連中が待機しており、まるで【長篠の戦い】での織田信長の鉄砲隊のようです。
一方、コロリ隊長はトランシーバーでその状況を把握、適切に指示を出しながらビルに戻ります。
向かうはヘリのあるビルの屋上。浅田がヘリを操縦できるとは限りませんが、クルス一派の苫米地がヘリを操縦できるとのことなので、東京を脱出するにはやはりヘリを目指すしかありません。
この時のために色々準備をしていたコロリ隊長。いよいよ行動に移します。
ヘリを目指す一行
さて、サンライズビルに戻ったコロリ隊長たち。コロリ隊長の準備と作戦、クルス一派だったおばちゃんの力で止まっていたエレベーターの再稼働に成功します。
その頃、ZQNと芝刈り機で戦っていたコロリ隊長の仲間達ですが、復活した毅がバリケードを突破して一気に隊列が崩壊し、絶体絶命のピンチに・・・
しかし、そこへエレベーターでコロリ隊長達が上がってきて連携攻撃で毅を見事撃退します。
トドメを刺したのはおばちゃんですが、よく一目で毅とわかりましたね。それも、躊躇なくトドメをさすのですからさすがです。
ところでこのおばちゃん、新規作画されているんでしょうか。登場シーンは多いのですが、絵がほとんど過去のものと同じに見えて(特に武器を構えた絵)、なんだかマンガ『カメレオン』(AA)を思い出します。
それはともかく、全員とまではいきませんでしたが仲間を救出したコロリ隊長達。
再びエレベーターに乗り込み、屋上のヘリを目指します。
対峙
コロリ隊長が目指す最上階にいる浅田教の教祖・浅田くん。
のんきのコーヒーを飲んでいますが、ヘリで脱出できる算段が整っているためか、余裕が感じられます。
上階には生き残っていた多くの老人たちが、瞑想部屋と呼ばれる場所に集められていきます。
本来なら真っ先に淘汰される老人たちを多く生き残らせたのは、浅田教の殉教者に仕立て上げるためのようで、自分の目的のためとはいえエグいことを考えます。
そこへやってきたのは、苫米地たち。
どうやってここまで来たのか不明ですが、ヘリを操縦できることで絶対的な存在になった浅田くんの前に同じくヘリを操縦できる苫米地が現れましたから、浅田くんにはあまり明るい未来はなさそうです。
第20巻はここまで。第21巻は10月に発売予定です。
感想
比呂美のために、ようやく前向きになった英雄。正直遅すぎだとは思いますが、それでも主人公がヒロインを助けに動くところはやっぱり燃えます。
内容的にはコロリ隊長とサンライズビルでの動きがメインですが、ZQNに囲まれた困難な状況の中で、屋上のヘリを目指すのは緊張感があって面白かったです。
あと気になるのは、ラストで浅田くんに会った苫米地たちがどんな動きをするのか。
クルスは登場してはいませんがすぐ近くにいるでしょうから、彼らの動き次第でコロリ隊長たちとの戦闘もありえるでしょう(最もコミックスの表紙ですでに対峙しているのでそうなるのでしょうが)。
どちらにせよ、作品の完結はもうすぐといった印象です。