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『葬送のフリーレン』第10巻 感想 冷酷で残忍でありながら魅力的な【黄金卿のマハト】の過去

山田鐘人・アベツカサ(著)『葬送のフリーレン』第10巻 表紙

アニメの放送が2023年秋に決定した『葬送のフリーレン』の原作コミックス第10巻が発売。さっそく買ってきたので簡単に感想を。

目次

山田鐘人・アベツカサ(著)『葬送のフリーレン』第10巻

サンデーで人気の『葬送のフリーレン』もついに二ケタ10巻となりました。今回は第88話から第97話までを収録。

あらすじ

今は亡き勇者たちに捧ぐ後日譚ファンタジー

魂の眠る地・オレオールへと旅する、勇者一行にいた魔法使い・フリーレン。
七崩賢・マハトの“人を知る”過去の中に、人類と魔族の特異な関係性が存在した。
物語は、色彩を失った黄金へと融けてゆく。

英雄たちの“悪意”を反射する後日譚(アフター)ファンタジー!

引用元:https://shogakukan-comic.jp/book?isbn=9784098517718

10巻の表紙にはフリーレンのほか、今回の主要キャラであるマハトとグリュック、それに大魔族であるソリテールとこのエピソードの主役であるデンケン。

山田鐘人・アベツカサ(著)『葬送のフリーレン』第10巻 表紙
引用元:山田鐘人・アベツカサ(著)『葬送のフリーレン』 第10巻 2023年3月 小学館発行より

帯にもTVアニメについての情報が。『ぼっち・ざ・ろっく!』で今話題になっている斎藤圭一郎氏が監督ということで期待ですね。

引用元:山田鐘人・アベツカサ(著)『葬送のフリーレン』 第10巻 2023年3月 小学館発行より

ちなみに表紙別案には過去編である右側に幼少のデンケンがいるのがスゴくいいですね。左にフェルンとシュタルクがいますけど、バランス的にもこっちのほうが気に入ってます。

https://twitter.com/abetsukasa/status/1635815913323925504

アニメのPVも声優とともに発表されました。フリーレン役は種﨑敦美さん。想像よりも大人っぽくて大人しい印象でしたね。

シュラハトが良いキャラしてる

今回はマハトを中心とした過去編となっておりますが、以前ちょっとだけ登場した【全知のシュラハト】がマハトとの会話で再登場。南の勇者と相打ちになったという魔王の腹心ですが、目元といい風貌といいかなりカッコイイですね。敵の大幹部感が凄い。

全知のシュラハト
引用元:山田鐘人・アベツカサ(著)『葬送のフリーレン』 第10巻 2023年3月 小学館発行より

南の勇者も未来予知がありましたけど、お互いが予知能力を持っていたということでシュラハトには天敵だったのかもしれません。ちなみに南の勇者と相打ちになることを未来視でシュラハトは知っているわけですが、そのことをいきなりマハトに指摘されたときのシュラハトの台詞“そんなことはやってみなければわからない”は笑えないジョークですね(直前に数えきれないほど予知したと言っているし)。

ついでに階段に座るマハトと会話しながら、いったん階段を下りてまた上がって、最後にマハトの隣に一緒に座る行動が何気に面白いw こんなマント羽織ってて階段に座るんかい、と思わずツッコミたくなります。良いキャラです。

この時はもう一人、七崩賢の【奇跡のグラオザーム】も登場。喋りはしませんが能力的にマハトの天敵らしく、今回は過去の記憶を読んでいたフリーレン対策にマハトの記憶を消すために登場(シュラハトの未来視により、将来のフリーレンがこの場面をのぞき見していることをこの時点で知っている)。ここでシュラハトが言っている記憶を消すのが「南の勇者との戦いを見せないため」と「千年後の魔族のため」というのが引っ掛かかります。南の勇者との戦いはそんなに重要なものなんでしょうか。いずれ明かされるのか楽しみです。

マハトが人間に仕えて理由

マハトは今も七崩賢で生き残っているくらいの強敵ですが、そんな彼がなぜヴァイゼで人間に仕え、デンケンの魔法の師だったのか。この10巻で明らかになります。

グリュックに仕えるマハト
引用元:山田鐘人・アベツカサ(著)『葬送のフリーレン』 第10巻 2023年3月 小学館発行より

それはヴァイゼの領主・グリュックと取引したから。そもそもマハトは人間のもつ「罪悪感」や「悪意」といった感情が理解できなかったわけで、それを知りたいと思ってました。そこへグリュックが取引を持ち掛け、自分に仕えればその感情を教えられると言ったのでした。

大魔族にずいぶん大胆な取引ですけど、この時のグリュックは取引が成立しようがしまいがどちらでもという状況でしたから大きく出られたんでしょうね。グリュックに仕えてヴァイゼに入り込んだマハトはその後30年以上も彼と行動をともにし、ヴァイゼの人々と国に尽くします。マハトもグリュックも互いが利用しあう打算的な関係でしたけど、その過程でデンケンの魔法の師にもなりました。この時の経験が、後のデンケンにしっかり生かされているのがいい。

それにしてもマハトは、捕食する対象である人間に取り入るのが異常にうまいですね。強力な魔族なら本来は人間に恐れられるわけですけど、それを超えてヴァイゼの人々の信頼を勝ち取っています。どうもマハトはそれがナチュラルにできるようですから、実社会にいたら大企業でも十分通用するコミュ力です。

しかし、ここまで人間の信頼を得る力がありながら、実際には人間を餌としかみていないのだからマハトは恐ろしい。魔族とは本来こういった性質のようですが、それに照らせばマハトはとびきり優秀ということでしょう。魔族は人間とは決して分かり合えない存在だというのを、この作品では嫌というほど教えてくれます。

マハト対ゼーリエ

ヴァイゼで過ごして30年、結局グリュックを含め親しくなったものをぶち壊せば「罪悪感」がわかるかもと、都市すべてを黄金に変えてしまうマハト。でもやっぱり「罪悪感」はわからず仕舞いということで、もうこれ諦めたほうがいいだろ、とイチ読者としては思うのですが本人はまだやる気らしい。

そんな迷惑極まりないマハトの元に突如ゼーリエが現れ、マハトに黄金に変えた街を元に戻せと迫り、そのまま戦闘に入ります。伝説的な存在でありながら、もはや語る者もいなくなるほどの遠い年月を過ごしてきた大魔法使いゼーリエの戦いが、10巻にしてついに描かれます。

笑うゼーリエ
引用元:山田鐘人・アベツカサ(著)『葬送のフリーレン』 第10巻 2023年3月 小学館発行より

マハトすら存在を知らない彼女ですが、その戦闘能力は七崩賢の彼ですらまったく敵わないほど圧倒的。ドヤ顔でマハトの黄金を跳ね返し、剣を防いで難なく反撃します。合間でマハトを煽ることも忘れないのが性格の悪いゼーリエらしい。

このまま終わりかと思いきや、殺してしまうと黄金を戻す術が失われるということでレルネンたちが介入し、マハトを封印してしまいます。マハト討伐よりも黄金の呪いをどうにかするほうを優先したわけですね。こうして黄金都市となったヴァイゼは、マハトもろとも封印され現在に至るというわけです。

ところでゼーリエはマハトを倒すつもりでしたけど、そもそも彼女は人類に対してどんなスタンスなのか。大陸魔法協会もフランメの遺言があったからでしょうし、弟子はともかく大多数の人間のことにはあまり関心がないように見えます。ゼーリエの出自に関してはまだまだ不明ですので、今後明かされることがあればいいなと思います。

解かれる封印

ここまででマハトの記憶をある程度解析し終えて、フリーレン様は動画をエンコしたCPUのように全体の処理速度が低下。介護をフェルンに頼んで、黄金の呪いを解呪するためさらなる解析作業に入ります。が、このタイミングでなぜかヴァイゼの封印を解きに大魔族ソリテールがやってきます。

マハトの手助けにきた大魔族のソリテール
引用元:山田鐘人・アベツカサ(著)『葬送のフリーレン』 第10巻 2023年3月 小学館発行より

魔族には解除できないはずのヴァイゼの結界を、(マハト流の)「人類との共存」の結末を見たいからという理由で解除するソリテール。本人は臆病で心配性だと言ってますけど人間をいたぶることを明らかに楽しんでいる様子で、こちらも見た目からは想像できないくらい残虐な性格してますね。それでいて非常に探究心旺盛で優秀なのですから、なお性質が悪いです。

フリーレンの解析も間に合わないまま、マハトは結界から解き放たれ、ソリテールはシュタルクとフェルンと対峙。2対1でもフリーレン無しで勝てる姿がぜんぜん想像できず、二人はソリテールにもてあそばれ気味です。いちおうフェルンが健闘しますが、大魔族を倒すのはどうみても無理筋ですね。

師弟対決

結界から解放されたマハトはデンケンと対峙。色んな意味で因縁ある二人ですけど魔族は信頼しないと言っていたデンケンが、やっぱり師であるマハトに親愛の情を持っていたのは、頭ではわかっていても感情はどうにもならないといういかにも人間らしい部分で、魔族然としたマハトと対象的でした。

デンケンとマハト、師弟対決
引用元:山田鐘人・アベツカサ(著)『葬送のフリーレン』 第10巻 2023年3月 小学館発行より

そのまま戦闘に入る二人ですが、勝てるハズが無いと見くびっていたデンケンが善戦するのを見て、うれしそうにするマハトが意外。魔族とはいっても人の悪意や罪悪感が理解できないだけで、成長を見守り育てた弟子が自分をてこずらせるのは面白いと感じているようです。単純な殺戮者ではないマハトの魅力がでていて、同じ七崩賢でも以前登場した断頭台のアウラなんかよりよっぽどいいキャラしてますね。

もっともデンケンの分が悪いのは変わらず、結局デンケン・シュタルク・フェルンは敗北。そのまま黄金の呪いは広がりフリーレンも黄金に変えられたと思いましたが、この土壇場でフリーレンの黄金の呪いを解く解析作業が完了。大魔族二人とのバトルを予感させるセリフで10巻は終わりました。

まとめ

約半年ぶりの新刊でしたけど、まさかヴァイゼ編がこんなに面白いとは思っても見ませんでした。その要因はやっぱりマハトの過去話。正直、これまで登場した七崩賢の面々はあまり魅力的ではなかったのでマハトも同じかと思っていたのですが、単純な魔族ではなく人間側に立場が近くなるだけでこんなに魅力的になるとは。

でも、並のマンガならマハトが人間サイドに寄りすぎて魔族である自分のアイデンティティと葛藤したりするのでしょうけど、何十年人間と一緒にいてもそうはならない。あくまで人類は捕食される側であるという立場は崩さないのが本作らしくて好きです。マハトにとって人類は興味を持つ実験の対象でしかなく、けっして対等ではないわけです。

領主のグリュックもキャラが立ってていいですね。まさにマハトの悪友という感じで、奇妙な主従関係でありながらどこか友情のようなものも感じます。それでいてあの結末自体にグリュックは満足しているようですから、人間の中ではだいぶ質の悪いほうでしょう。

一方、現代に戻ってからはデンケンとマハトの師弟対決が楽しみでした。案外あっさり目でしたがデンケンの戦法には熟練の戦いが見てとれて、しっかり見せ場もあって満足です。そして、我らがフリーレン様は黄金の呪いを破り、いよいよ始動というところで終わり。これほど次巻が待ち遠しいのもここ最近では珍しいです。とにかく早く11巻発売してくれないかなと一日千秋の想いで待ってます。

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